おばあさんは、おじいさんのことが
それはそれはもう大嫌いでした。
だっておじいさんときたら
仕事はしない、文句ばかり言う、
年金が入ったら即飲みに行ってしまう…
いわゆるクズのような男だったからです。
最初はこんな人ではありませんでした。
不景気の波に飲まれ、
芝刈り用の鎌を製造する会社が倒産し
おじいさんは段々に狂っていったのです。
いつまでもこんな人と一緒にいたら
いつか私までおかしくなってしまう…
この人から離れないと…
おばあさんは倉庫に大量に抱えた
鎌の在庫から一本を抜き取り、
それをブラジャーの中に忍ばせました。
そして酔っぱらって泥酔している
おじいさんの枕元に立ちました。
そして徐にパジャマを脱ぎ捨て
ブラジャーのホックを外し
上半身裸で鎌を握り締めました。
おじいさん、さようなら…
そう呟いて鎌を振り上げたその瞬間
おばあさんの頭には
楽しくて幸せだった日々が
まるで走馬灯のように駆け巡りました。
おばあさんは鎌を落とし
がくりと膝から倒れ込みました。
だめだ!できない!!!
おばあさんは上半身裸のまま外へ出て
夜風にあたり頭を冷やすことにしました。
四月のまだ肌寒い夜風が
おばあさんの胸を揺らします。
おじいさんに期待していてはだめだ。
私がおじいさんを更生させるんだ。
もっと大きな愛で包み込むようにー
おばあさんは仏のように穏やかな気持ちで
再びおじいさんの枕元へ戻りました。
するとその時です!
おばあさんの口から大きなハートが
ぼろりとこぼれ落ちたではありませんか!
その大きなハートはおじいさんの体を
まるで生きているかのように
ぬるりと飲み込んでしまいました!
一瞬の出来事に、おばあさんは
何が起きたのか全く理解できません。
しかしそこに大きな愛に包まれた
おじいさんがいることは分かります。
おばあさんは愛しい気持ちで
おじいさんを丸飲みしてしまった
その大きなハートを抱きしめました。
おじいさん、愛していますよ。
その夜大きなハートを抱いたまま
おばあさんは眠ってしまいました。
翌日目を覚ますと、やはり昨夜のまま
大きなハートはそこにありました。
おはよう、おじいさん。
おばあさんは大きなハートに
いろいろな言葉をかけました。
おはよう。いただきます。おやすみ。
そのどれもが最近では忘れていた言葉です。
おばあさんは心穏やかに過ごしました。
しかし2〜3日が過ぎますと
それもいささか面倒になってきました。
なによりその大きなハートが
邪魔で邪魔で仕方がありません。
特に掃除機をかけるときが超邪魔でした。
もういいや、さようなら。
と、おばあさんはその大きなハートを
捨ててしまおうとしましたが、
ゴミ袋(大)にはおさまりません。
どうでもよくなってその大きなハートを
近所の川にぽいと蹴り落としました。
一方その頃、
大きなハートに閉じ込められたままの
おじいさんはと言いますと、
包み込んだ大きな愛の力によって
体はみるみると幼児化していき
やがて赤ん坊になっておりました。
きっと母性愛による奇跡なのでしょう。
その後おじいさん(赤ん坊)は
それを桃だと勘違いした
腹を空かせた別のおばあさんに拾われ
命からがら生き延び、
命からがら鬼を退治し、
鬼から強奪した金銀財宝を元手に
また飲むや騒ぐや抱きまくるやの
クズライフを謳歌することになるのですが、
それはまた別のおはなしー
SILENT YARITORI
ちゅーへの手紙
0コメント